シェルター
第二部で、沢野が竹居のベッドで眠ってしまった時。
◆ シェルター ◆
--竹居side--
絶対、触らないように、してた。
バカなことを言ったりやったりするから、そのときに、せいぜい、頭をはたくぐらい。
手とか、顔とか、夏服の時は、袖からで出てる腕とか。
肌に触れたらヤバイと思ってた。
一度触ったら、きっとどんどん触りたくなる。歯止めが利かなくなる。
好きだって、バレる。
沢野は、無鉄砲で正義感が強くて、自分より人を優先してしまうヤツで。
教室では強がるくせに、裏では泣いたりして。
しょっちゅう俺の家に来ては泣いた。
なんか懐かれてんな、と思った。
なんでわざわざ俺んちに泣きに来るのか不思議だった。
あるとき、ふと思い当たった。
シェルターか。
こいつにとって、俺の部屋は安全な場所か。
失恋して泣いた末に、人のベッドに潜り込んで、あっさり眠った横顔を眺めてた。
眩しいだろうと、部屋の電気を豆球にしてやる。
頬には涙の跡。暗くてもわかる。
眠ってるのに、涙が一筋、流れた。
ほんとによく泣くな。
ほんとに、傷つきやすいな。
大丈夫か、お前。こんなんで生きていけるのか。
無茶するからだ。好きな男の片思いを、応援したりするからだ。
自分を傷つけてまで人を守るからだ。
涙がまた、一筋流れた。
その涙を拭ってやりたくて。
でも触れなくて。触っちゃだめだって思って。
迷って、じっと眺めてたら、沢野が呟いた。
「……タケ、イ……」
こらえきれずに。
その涙を指先でそっと拭った。
なぁ。
他の男が好きなくせに、なんで、お前、俺を呼ぶんだ。
なんで、ここに、来るんだ。
俺は男で、お前は女で、
うちではいつも、ふたりきりなのに。
安心するとか言って、俺のベッドで寝るなよ。
なんで、そこまで俺を信用するんだ。
なぁ。沢野。
他の男を好きなんだったら、もう、来るな。
俺の部屋は、安全な場所じゃ、ねぇよ。
頼むから、もう、俺を、呼ぶな。
早く起こさなきゃと思うのに、起こせなくて。
その顔を、眺めていたくて。
結局、寝かしておいた。
これで見納めだと思って、ギリギリの時間まで、ずっと、眺めてた。
涙で濡れた顔を、眺めてた。
fin.